高価格な完成車というのは、トータルでのフィーリングにこだわって作られていることがほとんどだ。細部のパーツアッセンブルも含めて、パフォーマンスのバランスをいかに取るかということになる。
そういう視点から見ると、このトライクロスはとても完成度の高いモデルといえる。FACTカーボンフレーム+カーボンフォーク+スラムFORCEフルセットだから、値段も高いのだろうけれど。。。
トライクロスはそもそも、ロードバイクをベースにしてオフロードも走れるようにした【シクロクロス】というセグメントに入るモデルだが、重量およびペダリングの軽さとシャープなハンドリング、そして何より乗り心地の良さは、乗り手を実に良い気分にさせてくれる。
ちょうどロードバイクの機動力に、ツーリングバイクの懐の大きさが加わったようなカンジなのだ。
ヘッド回りの剛性の高さ、フォークの横剛性の高さ、ペダリングをしっかりと受け止めてくれるフレームのBB回りや、ターマックSL2同様のFACTカーボンクランクセット。
一方で、路面からの衝撃をマイルドに和らげてくれるシートステーやシートポスト、路面の凹凸に合わせてしなやかに変形してくれる32Cのブロックタイヤ。
乗り心地を追求しすぎると全体的に剛性不足になりがちだし、逆にペダリングやハンドリングの小気味良さを追求しすぎると乗り味が硬くなりがち。
そういう点で、バランスが優れている……という次元をもはや越えて、ここまで相反する要素を両立できるのか、と驚いた次第だ。高速コーナーでも前輪のラインがブレないし、路面が荒れても挙動は安定。何よりサドルに座っていても振動の鋭さが明らかに軽減されている。
ずいぶん前になるが、コメンサルのアルミ製シクロクロス車に乗ったことがある。ロードバイクと同等の軽さ(重量もペダリングも)に驚いたが、あくまでも「1時間というシクロクロス競技の時間限定」であった。それ以上の時間ダートを走り続けるのは、一般の人にはなかなかしんどいような各部の剛性感であった。
もしトライクロスを手に入れたなら、フラットダートと舗装路が入り交じる長野~山梨県にまたがる八ヶ岳の周囲を、裏道を繋いで一周してみたいと思う。丸一日がかりになるだろうけれど、おそらく今までの自分では考えられないような走りが実現するはずだ。
そういえば【トライクロス】っていう車名、スペシャが80年代末に初めて作ったシクロクロス用の700Cタイヤの名前だったはず。トライポッドなデザインの小ブロックがトレッド面に並べられていて、チューブラー全盛時代にある意味画期的かつ革新的な製品だった……と記憶しているけど、合っているかな?
(CUB)