「マジでーっっ!?!? 勝ったと思ったのに!!」
思わず叫ぶが、いとも簡単にオイラを抜き去ってゆく。
後ろに付かなければ、と頭では分かっているが、差が広がる一方。
5m、10m……。
早くピークに着いてくれ……
15m、20m……。
何とかこらえたい。が、どうにもならない。脚がイッパイ。
その差が25m程度になったとき、ようやくピークに到着。あとはゴールまで約10km下りのみ。
一呼吸置く間も惜しんでアウターギヤへ入れると、重力に加えてペダリングでさらに加速。もちろん彼も同じことをしているだろう。
下りはじめのガレた直線、その後の高速左コーナー、あとはもう覚えられないぐらい左右へ振りながら標高を落としてゆく。もちろんコーナーの立ち上がりは鬼コギ!
幸い路面は安定しており、加速は軽量タイヤを履くコチラに分があるようだ。
コーナーを繰り返すごとに、少しずつではあるが、彼の着るシーナックジャージの背中が大きくなり、ピークから1分ほどで背後にベタ付きに。
ようやく一息。そして連なって、幾人もの100kmライダーを抜いていく。
ここで冷静に考える。勝つためにはどうしたらいいか?
後ろからプレッシャーを掛けて、ラインを乱させるか?
いやいや、そんな小ざかしい小手先の圧力が通用する相手ではない。
なんせJシリーズのエリートクラスという、もっと大きなプレッシャーの中で彼は走っているのだから。
背後でスリップストリームを使いまくり、脚を温存させてゴールスプリントに持ち込むか?
いやいや、普段の練習中、スプリントポイントで彼に勝てたことがないじゃないか。
ここはやはり、下りのコーナーを使って差を広げるしかない。
そのとき、100kmライダーが二人、我々のラインを塞ぐように前方を走っていた。しかも先は左から右へとコーナーが複合しており、どこを通るべきか一瞬迷う。ヤバイ? いや、チャンス!
odj氏は右へ。そこは若干のガレ場があるものの、上手く抜ければ後半の右コーナーでインを突けるはず。
しかしオイラは左へ。先行の二人の速度が遅いと読んで、最初のコーナーで思い切ってインを突く。
一気に三人を抜くと、続く右コーナーはイン側のビンディングを外しながらギリぎりグリア。
そこから再び鬼コギ開始。そして直線をこらえる。もちろんすぐ背後ではカチャカチャとチェーンの跳ねる音。
いる。確実に来ている。
しかしここで差を広げないとゴールスプリントに持ち込まれてしまう。
もはや「パンクしてもいい!」とも思う(いや、やっぱりパンクはしたくないけれど)。
自分が負けると分かっているスプリントでショボく散るぐらいなら、全開で下りを攻めてやる。もしパンクで散ったとしても仕方ない。清々しく散ってやる。
そのぐらいの気持ちで攻めないと、勝機は見いだせない!
脚が股関節から千切れそうになる。
ヒラメ筋も大腿四頭筋もピクピクと悲鳴を上げており、もはや攣る寸前。いつもなら39×11Tのトップギヤをもっと早く回せるのに、ケイデンスを上げられない。もどかしい。
酸欠で意識が遠のきそうになるのを、最後の集中力を絞ってつなぎ止める。
左のヘアピンで後方を確認。
よし! 誰もいない!
標高が下がると林道は直線基調に。みんなが通る「王滝ライン」は100kmライダーが走っているので、脇の不安定な路面を抜ける。
時速50km。
タイヤはグリップとは無縁の世界に入っており、雪原をスキーで滑降しているような浮遊感覚。
もっと漕ぎたい、もっと回したい、と思うも、すでに限界頭打ち。これ以上風圧に抗えず、スピードを上げられない。
先ほどは左折した20kmループ分岐を通過。残り2km。
右手に川を見ながら、なおも直線のダートをコギ倒す。
脚はすでに回らないので、骨盤を左右に揺らしながら上半身の体重をペダルに乗せるしかない。
脚が痛い。
そして見覚えのある橋を、樹木の間から右前方に確認。
振り返る。まだ来ていない!
ジャージのジッパーを上げて身だしなみを整える。
最後の右コーナーを曲がると、ゴールの橋と旗が目に飛び込んでくる。
逃げた。逃げ切った。
自分としては珍しく、残った渾身の力で両拳を天に突き上げる。
やったな、オレ。
頑張ったな、オレ。
かっこいいぜ、オレ。
その40秒後、odjクンがゴールに飛び込んできた。
悔しそうにヘルメットを投げ捨てている。
なんていい光景なんだ。
両脚を引きずるようにして道路脇にへたり込み、2ℓコーラを開栓する。
糖分を補給してやっと落ち着く。
そして自分のバイクを見ると、後輪がパンクしているではないか。
ギリギリだった。
最後はギリギリまで攻めて、ギリギリ空気が持ってくれた。
120km走って1分に満たない差。つまり1kmあたり0.5秒に満たない差しかついていないのだ。こちらもギリギリ。
もうひとつの目標であった6位入賞には、残念ながら届かなかった。
これも達成していたら喜びももっと大きかったに違いない。
走り込んだ量は結果に反映されるものだが、自分が総合の表彰台に乗るには、まだ足りないということだ。
午後4時からは表彰式。
今年も年代別での表彰対象で、40代1位。
同2位だったodjクンとともに表彰台に立つ。
さーて、来年はどうなるのでしょうね?
(長文にお付き合いいただき、ありがとうございました)