スキャン能力

オイラが(喘息やインフルエンザや骨折で)個人的にお世話になっている某病院に勤める整形外科の先生によると、「最近骨折でいらっしゃる方の7、8割は自転車がらみじゃないかな」ということです。きちんと統計を取られたわけではないのですが、自転車が原因でケガをされる人が増えているのは間違いないことでしょう。そういえば自民党総裁の谷垣さんも昨年、多摩川サイクリングロードで流血されていましたね。
自転車で、しょっちゅうケガをする人がいます。自分も二度鎖骨を折っているので人のことをドウコウ言う立場にはないのかもしれませんが……。ただ唯一誇れるのは、さんざん自転車を乗り倒しているのに、一般車道を走行中に交通事故に遭ったことがないということでしょうか。
もちろん交通事故には「運悪くどうにも避けられないもらい事故」というのもあるかもしれませんが、多くは防げるのだと思うのです。
大学教授の内田樹先生によると、「男は外に出ると7人の敵がいる」というが、7人というのは必ずしも人ではなくて、八方あるうちの目で直接見えている前方以外の7方向にも気を配れということではないか、というとらえ方をされているのです。
なるほど。と思ってしまいました。
たとえば車道を走っていると、後ろからクルマに抜かれます。もしくは直前を走っているクルマが左折します。はたまた対向車が右折します。駐車車両があれば、車道側にはみ出します。
こういった場面が常に繰り返されるワケですが、このときのお互いの位置関係をどこまでイメージできるか、ということなのでしょう。もちろん「対クルマ」だけでなく、「対歩行者」「対自転車」にしてもそうです。むろん直視できないエリアも含めてです。
内田先生の言葉を引き続き引用させていただきます。
【サッカーやラグビーなどでは「スキャンできる」という言い方をします。新日鐵釜石の伝説的なスタンドオフだった松尾雄治は、素晴らしいスキャン能力がある人でした。ボールを持ってゴールに向かって突進しているとき、彼の進路を塞ごうと駆け寄ってくるディフェンスたちの数秒後の位置関係を予測する。だからディフェンスとの間に奇跡的にできたスペースを駆け抜けてゆくことができるのです。】中略【「スキャンする能力」というのは、だから上空から自分を含むフィールドの全体を俯瞰してマッピングし、さらにそこに時間軸を加えた四次元にシミュレーションができるということです。こういう動きは単純に足が速いとか、当たりが強いとかという解剖学的なファクターでは説明できません。空間的かつ時間的なマッピング能力というのは、もっと総合的な身体能力ではないかと思います。】
全ての人にトップレベルの「スキャンする能力」が必要だとは思いません。しかし自分が事故に遭わないための最低限の「スキャンする能力」は身につける必要がありそうです。
内田先生は問題を提起する一方で、八方に気を配るトレーニング遊びとして、次のようなものを紹介しています。
【たとえば「ハンカチ落とし」という遊びがあります。】中略【ハンカチが空中を落下するときの空気の振動は「鬼」の騒がしい足音に比べればほとんど知覚不能でしょう。それでも勘のよい子は、ハンカチが地面に落ちる前に、自分の後ろに「鬼」がハンカチを落としたことを察知します】
なるほど〜。鬼ごっこにしても、かくれんぼにしても、缶蹴りやケイドロにしても、子供の頃の遊びというのは往々にして、人間の中にある野生を喚起するものなのかもしれません。単純に「速く走る」という身体的な能力には直接は繋がりませんが、八方の気配を感じ取り、自分を含めて俯瞰的にマッピングするスキャン能力というのは、たとえ大人になってからでも日々養うことで発達していくのではないでしょうか。

関連記事

最近の記事 おすすめ記事
PAGE TOP